土佐町森林組合
土佐町森林組合は、昭和31年に設立された森林所有者が組合員となって組織した協同組合だ。土佐町の84%を覆う山林を生かして、町の基幹産業として栄えてきた。土佐町森林組合が手入れを行うのは、基本的には民有林だ。一部国有林を含め、町内のあらゆる山に入って適切な林地の管理を行なっている。具体的には、苗木を植え付ける造林作業、間伐や下刈などを行う保育作業、林産と言われる伐採、搬出作業までのすべてを行う。
土佐町では林地所有者の高齢化が進み、これまで自分で手入れしていた山も十分に手入れすることが難しくなっている所有者が増えてきた。そうした場合に、森林組合に代理で管理して欲しいと依頼が寄せられる。年々、こうした林地管理の需要は高まっている。適切な手入れにより、健全な山が育ち、価値の高い木材を生育することが可能となる。
企業基本情報
会社名 | 土佐町森林組合 |
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業種 | 林業 |
設立 | 1956年 |
代表者 | 組合長:永野 敏明 |
事業内容 | ・造林事業 ・林産事業 ・杭丸太加工事業 他 ■ホームページ http://www.town-tosa-sinrin.or.jp/top.html |
本社所在地 | 高知県土佐郡土佐町土居26−1 |
私と仕事
林業はチームワーク
土佐町の一部では、山から山へワイヤーを架け渡した架線を使って木材搬出を行う方法をとっている。嶺北地方では唯一の大規模な木材搬出方法だ。重機などを使用する、比較的スケールの大きい林業である。現場となる山は、土佐町内といっても移動に1時間を有する場所も少なく無い。林業現場へは3人1組の班で入り、作業を行う。班長がその日の作業内容などを判断して指示を出すのだが、班の中ではいわゆる“ツーカー”の関係が自然と育まれている。何を言わずとも、互いの作業の進捗などを確認しながら動くことができ、指示が一から十までなくても理解し合えるチームワークだ。スムーズに次の作業を行うため、また安全な作業を行うためにはこうした関係を築くことは必要不可欠だ。周りと協力する姿勢や、チームワークを磨くこと、仲間を大切にする気持ちを持つこと。班での仕事となるため、こうした側面が職員には求められる。仲間と協力して作業に取り組み、手入れして蘇った山を見たときの達成感は何物にも変えがたい。
勤続52年という永野組合長は、根っからの山好きで、組合長となった今でも現場に足を運んでいるという。「ちょうどここで仕事を始めた頃が植林の最盛期やった。50年かけてその植えた木が育ってきたかと思うと、どこも思い入れがある山ばかりやね。」と半世紀かけて土佐町の山づくりを行なってきたこれまでを振り返る。
山の仕事は、長い長い期間をかけてじっくりと成果を出す仕事だ。植樹から放りっぱなしにしていては、山は育たない。下刈や間伐を山の成長のサイクルに合わせて行い、適切な生育環境を保つことが大切だ。そのコツコツとした積み重ねが何十年という歳月を経て、立派な木材を育てることに繋がるのだ。
私と仲間
作業班によって個性は様々
土佐町森林組合で働く職員は、総勢21名。うち半分が林業現場、残りの半分が管理的業務にあたっている。林業現場に入りながら管理的業務を担う職員も一部いるが、デスクワークが増えると皆現場に行きたくて仕方がなくなるという。
3人で構成されている作業班には、それぞれにカラーがある。架線作業が得意な班や作業道を作るのが得意な班。年齢が近い班もあれば、3世代で構成された班もある。3世代で構成といってもおおよそではなく、おばあちゃんと同級生、親と同級生という具合に3つの世代がきっちりと揃っているというのは珍しいだろう。色々なカラーの班があることで、熟練の技術を若手へ継承することができ、また切磋琢磨により技術の向上を目指すことができるだろう。自分たちが植え付けをした山を伐採するのは、次世代、次々世代の職員だ。その職員に「いい仕事をしているな」と思わせることができればと、日々の仕事に手は抜かない。
林業現場で働くには、必要な資格や講習がある。チェーンソーや玉掛作業、架線作業など様々あるが、それらの資格は就職後に取得することで問題ないと鳥山部長は言います。「初めは誰でも未経験者なので、知らないことばかりで当然です。最初は先輩についていくのも大変だと思いますが、まずは3年やりきることです。そうするうちに技術が身につき、全体の流れなども見えてくるようになりますよ。」と、将来の道筋が見えてくるまでの期間を語る。未経験から入った先輩職員は多い。まずは3年、そして5年、10年と努めるうちにできることは自ずと広がっていく。
山の仕事一筋の永野組合長が森林組合に就職した理由は「自然が好きだったから」だというが、以来52年間まだまだ現役で山に入り、好きという気持ちは衰えない。自然相手の仕事なので、同じということがまたとない現場だ。そうしたところにこの仕事の難しさや、やりがいがあるのだろう。50年を経てもなお、山に魅了されている組合長がいるのだから間違いない。
私と地域
山の価値を高める
土佐町の基幹産業である林業。木材価格が下落したことで、山の所有者に山を「お荷物」のように感じる人がいるのもまた事実である。そのような現実に対して、森林組合としてどういう風に向き合っていくべきか。鳥山部長は「木材の良さをPRし、その価値を再認識してもらうということが今後重要です。」と言う。近年は、木質バイオマスや木造建築材「CLT」の普及により、全体的に見れば木材価格は向上している。このような木材を取り巻く現状は、意外にも知られていない。こうした事実を周知して、たくさんの人に山への関心を持ってもらうことが、まずは大切だ。
そして、放置された山を一つでも減らし、手入れをして市場価値の高い木材が育つ環境を土佐町の山に整えることが森林組合の使命だ。そのためには、先に挙げた情報発信とともに、担い手の育成も行なっていかなくてはならない。土佐町森林組合では、職員の育成はもちろんのこと、自伐林業に取り組む小規模林業家への協力も行い、林業の裾野を広げようと取り組んでいる。林業従事者が増えることで、土佐町の林業が産業として一層発展していくことが可能となるためだ。
山は、里山の暮らしと繋がっている。健全な山を作ることは山の貯水力を高めて土砂崩れ防止につながり、里山の美しい景観を守ることにもつながる。そのため、地域の豊かな暮らしを守るには、山の手入れが必要なのだ。自然も人の暮らしも循環している。土佐町の棚田や流れる川、そこで育つ動植物。全てが循環しながら、この土佐町というまちを作っているのである。