株式会社大豊ゆとりファーム
大豊町ゆとりファームは、過疎高齢化による農業の担い手不足や労働力の低下に対応するため、平成8年に町の第三セクターとして設立された。主な業務は、農作業の受託や借り入れた土地での農作物の栽培、水稲の育苗に加え、農家さんが育てた農作物の庭先集荷と販売、そして研修生の受け入れなどがある。
大豊町は農業従事者の高齢化が深刻であり、また後継者も不足している。中山間地域に位置することから、大規模な農業は望めず、小規模だがこだわりを持って農業に取り組んでいる方も農家さんがいる。少量多品目で有機農業に取り組む方や、こだわってトマトを栽培している方など。30代、40代から大豊町で農業を初めて、一生懸命に取り組んでいる。そうした農家さんたちと一緒になって、地域の農業を維持するためにゆとりファームが農作業の受託や、所有者が管理しきれなくなった農地を借り受けて農作業を行なっている。
企業基本情報
会社名 | 株式会社大豊ゆとりファーム |
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業種 | 農畜産業、小売業 |
設立 | 1996年4月 |
代表者 | 吉村 優二 |
事業内容 | ・農産物販売に関する事業 ・農林作業受託に関する事業 ・土木工事業 ■ホームページ http://www.yutori-farm.jp/index.html |
本社所在地 | 高知県長岡郡大豊町黒石343-1 |
私と仕事
次へのバトンを渡すために田畑を耕す
ゆとりファームが管理を受託したものでは、水田の耕起、田植え、稲刈り、乾燥、籾摺りなど水稲に関わる一連の業務を始め、ゆずの収穫、山菜のぜんまいなどがある。大豊町は中山間地域のため、まとまった農地を確保することが難しく、小規模な田んぼが点在している。そのため、高齢化や兼業農家の増加などを受けて、管理をゆとりファームにお願いする方も増えている。ゆとりファームでは農業用機械も揃っているので、農家さんが高額な農業用機械を購入する必要もない。その他、樹木に大きくて鋭いトゲがあるゆずの収穫は、ひときわ重労働。高齢になり受託を依頼する農家さんも増えてきたという。
一方、借り受けている農地では、水稲やピーマンやネギなどの野菜、そして地域の特産品である「碁石茶」を栽培している。もともと田んぼであった場所では水稲を行い、畑では比較的省力で栽培できるピーマンとネギを選定して栽培を行なっている。
手入れができなくなった田畑をゆとりファームが借受けて作業を行うことは、担い手を育てることにつながっている。一度耕作をされなくなった田畑をもう一度復活させるためには、時間と労力をかけて土作りから始めなければならない。新規就農者が大豊町での就農を希望した際に、スムーズに農業が始められるよう、耕作放棄地ではなく耕された田畑を割り当てることができれば経験の少ない新規就農者にも優しいだろう。ゆとりファームが、耕作放棄地が出ないよう、借り受けた田畑で農作物を育てながら管理を行なっているのはそういう理由からだ。それも、大豊町の農業を維持するため。町内の就業者の高齢化に歯止めをかけるには、大豊町で農業に取りみたいという新規就農者が必要だ。
私と仲間
農業を守っていくことで、地域も守る
ゆとりファームのスタッフは5名で、それぞれに水稲や農作物など担当が決まっている。農業は季節ごと収穫できるものが異なるので、担当がありながらもそれぞれの業務を協力して行なっているところは大きい。異業種やサラリーマンからゆとりファームに転職したスタッフもいて、農業を一から学び取り組んでいる。大切なのは、何よりも農家さんとのコミュニケーションだ。農家さんから農業のこと、地域のことを教えてもらいながら、ゆとりファームとしてお手伝いできることは何かを考えることが非常に必要だ。
こうしたスタッフの他にも、季節ごとの農作業をお手伝いしてくれる非常勤職員を雇っている。中には、夏はラフティングガイドをしながら、秋にはゆず収穫の臨時職員として働くなど、地域の他の仕事と組み合わせて働いていた方も居たというから、ライフスタイルに合わせた自由な働き方が可能となっている。
また、地域の声に応えて庭先集荷も行い、農家さんの所得向上にも努めている。朝6時頃から町内の契約農家をめぐり、庭先に出してくれている農作物を集荷する。集荷した野菜は、高知市のJA直売所「とさのさと」やスーパーの直売コーナーで販売される。高齢の農家さんにとっては、大量に農作物を作ることは難しく、また出荷作業も体力仕事のため大変だ。こうして庭先にまで集荷に来てくれれば、これほど助かることはないだろう。また、庭先集荷という形で出荷した野菜が高知市の直売所などで販売されることで、収益になるとともに農家さんのやりがいとなる。広い大豊町を早朝から集荷に回るのはたやすいことではないと思うが、「農業を守っていくことで、地域も守る」というゆとりファームの思いで、取り組んでいる事業だ。大豊町から始まる元気な地域づくり。その中心には農業があった。
私と地域
碁石茶誕生のものがたり
碁石茶は、大豊町で伝統的に作られてきた、400年以上の歴史を持つお茶である。碁石茶の名前の由来は、ムシロに広げて天日干ししている様子が、碁盤に碁石を並べた形に似ていることからそう呼ばれるようになったという。
緑茶を漬物と同じように漬け込んで発酵させた乳酸発酵茶だ。飲むと、爽やかな酸味を感じるが、植物性乳酸菌がたっぷりと入っているので体の調子を整えるのに役立つとして、その機能が全国から注目されている。
歴史ある碁石茶だが、一時は消滅の危機に瀕していた。生産工程に手間暇がかかることや消費者の嗜好の変化などにより、生産農家は激減。昭和末年には、碁石茶を作る農家は一軒にまで減少してしまっていた。そんな時、健康食品としての碁石茶の側面に注目が集まる。健康ブームが後押しとなって、碁石茶の認知度が全国的に高まった。これを受けて、生産農家が少しずつ増え、一度消えかけた伝統のお茶は復活を遂げた。
ゆとりファームも、生産者として碁石茶の製造に参加しており、碁石茶のPRや事務的な手続きなどのサポートを行なっている。実際のところ、当時8軒の農家さんの手によって作られていた碁石茶には品質にばらつきがあった。各農家さんの家の作り方、味になっていたのだ。全国に売り出していこうという計画の中で、まずは一度全ての碁石茶を調査することになった。作り方から、品質、成分に至るまで、一軒一軒丁寧に調べた。そして、調査結果をもとに品質や機能性に優れた作り方に製法を統一し、碁石茶の商品化が可能となった。江戸時代から続く、地域伝統のお茶がこうして脚光を浴びるとは。一度失いかけた伝統を絶やさず繋いできたこと、それは作り続けてきた地域の方の貢献によるものだ。